Graduate School of Science, Nagoya City University
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当研究室では、微小環境での匂い濃度測定と再現、動物や細胞の移動の解析、顕微鏡などの三次元画像処理に関して、先端的な技術を開発および運用しています。
また、飼育や解析が容易な線虫C. エレガンスをアッセイ系として用いて、味物質・匂い物質・薬剤・その他生理活性物質などが生体に与える影響を、さまざまなイメージング技術や人工知能知術を用いて解析することができます。
共同研究など、まずはお気軽にご相談下さい。
1)微小環境での匂い濃度測定と再現
匂い測定のためには空気を吸引することが必要であるために、微小な環境で匂い濃度を測定しようとすることは困難です。我々は独自の技術を開発することによって、直径9 cmのプラスチックシャーレ内で揮発・拡散によって形成された匂い濃度勾配を実際に測定することに成功しました。また、顕微鏡下で匂いの時間勾配を正確に作成することにも成功しています。(Yamazoe-Umemotoo et al., Neurosci Res 2015; Tanimoto et al., eLife 2017; Yamazoe et al., Bio-protocol 2018; Tanimoto and Kimura, Bio-protocol 2021)
2)動物や細胞の移動の解析
さまざまな技術的な発展により、「移動」の計測が容易になっています。ヒトや動物の移動なら小型のGPS装置やカメラによって、また細胞の移動なら先端的な顕微鏡によって。しかし、計測されたデータからヒト・動物・細胞の「移動の理由」を見出すことは、きわめて困難です。我々は、「移動の理由」を理解するための古典的または先端的な人工知能技術などを開発してきました。(Yamazaki et al., Front Neurosci 2019; Maekawa et al., Nat Commun 2020; 木村 実験医学増刊「機械学習を生命科学に使う!」2020)
3)顕微鏡などの画像処理
顕微鏡技術の発達によって高速での三次元画像取得が可能になり、組織や細胞のダイナミックな活動を画像として記録できることができるようになりました。しかし、特に時系列三次元画像データにおいて、複数の二次元画像の積み重なりから個々の「細胞」を識別し、さらにそれぞれの細胞の位置変化を追跡することは困難です。我々は、独自の深層学習技術を開発することによって、さまざまな時系列三次元画像データからの細胞識別と追跡を可能にしました。(Voleti et al., Nat Meth 2019; Wen et al., bioRxiv 2018および論文改訂中)
4)人工知能技術を用いた薬剤/生理活性物質標的分子の個体レベ ルでの探索
C. エレガンスを用いることで、薬剤やその他生理活性物質の標的タンパク質を個体レベルで探索できます。例えば、免疫抑制剤ラパマイシンの標的タンパク質TORは、酵母をもちいた順遺伝学的スクリーニングから同定されました。もちろんsub-type specificityなどの問題はありますが、薬剤や生理活性物質が進化的に保存された遺伝子のオーソログに作用するのは事実です。実際に我々は、C. エレガンスのD2型ドーパミン受容体欠損株とD2型ドーパミン受容体拮抗薬ハロペリドールでの処理が同じ行動異常を示すことを見出しました (J Neurosci 2010)。
C. エレガンスの神経系ではグルタミン酸、GABA、アセチルコリン、セロトニン、ドーパミンなどさまざまな神経伝達物質と、そのイオンチャネル型または代謝型受容体が進化的に保存され、機能しています。従って、例えばいまだにin vivoでの作用には未知の点が多い向精神薬の標的分子を、「野生型C. エレガンスへの処理→表現型の発見→遺伝学的スクリーニングによる耐性株の単離→全ゲノム配列決定による遺伝子同定」という手順によって、迅速に同定することが可能です。
我々は、C. エレガンスの行動の定量的解析に非常に豊富な経験を持っており最近では人工知能技術も導入していますので (Neurosci Res 2015; Sci Rep 2016; eLife 2017; Front Neurosci 2019; Nat Commun 2020) 、薬剤などによって引き起こされる行動異常を独自の立場から効率的に見出すことができます。さらに、独自の人工知能技術を用いた三次元高速イメージングによる全脳活動計測や (bioRxiv 2018; revision中) 、国際共同研究による多色イメージングでの全神経細胞同定技術 (Yemini et al., Cell 2020) を用いて、神経回路のどこにどのような異常が起きているかも迅速に解明することができます。
すなわち、我々は薬剤や生理活性物質が、いつ・どこでどのように作用し個体機能に影響するかを遺伝子/細胞/個体の全ての階層にわたって解明することができます。